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2024年12月27日

コラムvol.22『V2Xって何?~電気自動車が変える世界~』

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人々の移動手段が馬車から自動車になって100年以上が経過しました。その間に自動車は性能の進化と大量生産によって、私たちの生活に欠かせない存在となり、特に日本では自動車産業が基幹産業として国を支える大きな役割を果たしています 。一方で近年、化石燃料をエネルギー源とする二酸化炭素の排出が、地球温暖化の一因として問題視されています。日本の自動車会社は長年にわたり、燃費や環境性能の優れたハイブリッド車の開発に取り組んできましたが、政策的な背景もあり、内燃機関(エンジン)そのものへの懸念は中国や欧州を中心に強まるようになりました。
こうした背景から、世界的に普及が拡大しつつあるのが「電気自動車(EV:Electric Vehicle)」です。電気自動車は車体に大きな蓄電池とモーターを搭載し、電気の力だけで走行するため、運転中に二酸化炭素を排出しません。その独特な加速感や未来的な顧客体験は、先進的な嗜好を持つ顧客層に支持を広げています。しかし、電気自動車の変革は単にエンジンが電気に置き換わっただけではなく、私たちの社会にさらなる大きなインパクトをもたらそうとしています。それが「V2X(Vehicle to X)」という新たな価値です。

行き交う自動車

■V2X(Vehicle to X)とは?

電気自動車には大容量のリチウム電池が搭載されており、その容量は車種によりますが、一般的なモデルで40~60kWh、軽自動車でも20kWh程度 あります。家庭用蓄電池(主に戸建住宅の屋外に設置されるもの)が5~15kWhの容量であることを考えると、電気自動車がいかに大きな蓄電池を備えているかがわかります。例えば40kWhの蓄電池は、月に300kWhを使用する一般家庭なら約4日分の電力に相当します。電気自動車はこうした大きな容量を持つ「動く蓄電池」として、日常生活のさまざまな場面で活用される可能性を秘めています。この新たな可能性が「V2X」です。

「V2X」は、電気自動車の蓄電池を活用し、さまざまな電化製品やインフラと接続することを指すコンセプトです。この「X」には複数の対象があり、具体的には「V2L(Vehicle to Load)」、「V2H(Vehicle to Home)/V2B(Vehicle to Building)」、「V2G(Vehicle to Grid)」などが含まれます。それぞれの機能については、以下で詳しく説明します。
(※なお、車両が通信技術によって多様な情報と連携することも「V2X」と呼ばれますが、ここでは車両のエネルギー(電力)がさまざまなものと接続される側面に焦点を当てて解説します。)

■V2L(Vehicle to Load)とは?

屋外で電気を使用する場合、従来は「電線を引き回す」「発電機を持ち込む」などの準備が必要で、コストや場所の制約がありました。これを補う手段として活用され始めたのが「V2L」、つまり電気自動車から電気を供給する技術です。電気自動車に搭載される蓄電池は直流であり、電化製品を動かすためには交流100Vに変換するインバーターが必要です。車両にもよりますが、車両内蔵の小容量(1.5kW)インバーターのほか、外部機器として大容量(3~9kW)のインバーターを接続して使用します。

このV2Lにより電化製品などを屋外で使うことができ、キャンプや野外イベントなど屋外の楽しみ方も広がります。

V2L

また災害よる停電発生時には、停電した地域まで電気自動車を走らせて、電気を届ける取り組みも既に始まっています。実際に、2019年に千葉県を襲った台風の際には、停電した公共施設や福祉施設に電気自動車が出動し、照明や扇風機を動かして市民の生命を守ったということもありました。

■V2H(Vehicle to Home)/V2B(Vehicle to Building)とは?

「V2H」は電気自動車から家庭に、「V2B」はビルに電力を供給する技術で、一般的には充電も放電もできる「電気自動車用充放電器(電気自動車用パワーコンディショナー)」に接続し、電力会社からの電気と合わせて使用します。最近では、太陽光発電システムと組み合わせる使い方が増えており、昼間に太陽光の余剰電力を電気自動車に充電し、夕方や夜間に車両から電力を供給することで、日常生活の電力としても役立っています。

また災害の際にもV2H、V2Bは活躍します。災害による停電が起きた場合、電気自動車から電力を供給することで屋内の一部ないしは全部で、電気を使うことができます。定置型の電気自動車用充放電器による電力供給は、災害時でも比較的ゆとりのある電力を自宅等で使うことができるため、安心・安全を求める居住者から選ばれることも増えています。

V2H

■V2G(Vehicle to Grid)とは?

将来、電気自動車がさらに普及したときに期待されるのが「V2G」です。V2HやV2Bが建物への電力供給であるのに対し、V2Gは電力網に電力を供給する技術で、日本の電力事情の安定化に寄与できる可能性があります。東日本大震災以降、日本のエネルギー構成は化石燃料に依存する形になり、電力供給は厳しい状況が続いています。また、脱炭素化の流れの中で、再生可能エネルギーの普及と電力の安定供給の両立が課題となっています。

V2Gは、電力の余剰があれば電気自動車に充電し、電力が不足すれば放電して補うことで、電力網を安定させる機能を担えると期待されています。制度や技術面の課題もありますが、電気自動車が普及すれば、社会のインフラとして貢献する可能性も大いにある技術です。

インフラの未来

■おわりに

自動車業界は今、「100年に一度の大変革期」にあります。電動化などの技術進化により、従来の「移動手段」としての価値に加え、「停まっているときにも価値を生む」存在へと変わりつつあります。その一例が、電力供給や災害対応に活用できる「V2X」技術なのです。

電気自動車は環境面での貢献だけでなく、電力網の安定化や災害時の対応力強化にも寄与する可能性があり、その普及に期待が集まっています。技術の進化や政策の影響により普及のスピードにこそ波はありますが、将来的には電気自動車が広く普及し、「V2X」が私たちの生活を支えるインフラとしての役割を果たす時代が来るかもしれません。みなさんも自動車を選ぶ際には、「V2X」という新たな価値も判断材料に入れてみてはいかがでしょうか。
ライフハックライター 増田 利弘(中小企業診断士)